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★ 営業"赤字資金"という認識について

  中小企業の経営者が欲するところの経営資金情報は、営業期間中に努力したその結果として、売上収入はいくらで、費用・仕入決済高がいくらで、その結果として手元資金量がどうなったか、といったいわゆるキャッシュフローの数字です。つまり、期末の貸借対照表にいたる期中の資金活動状態と「利潤」という名の資金量です。

  「正味運転資本」あるいは「所要運転資本」という概念は少々アカデミックで、毎日厳しい決断を迫られる企業経営者からは馴染みにくい側面を持っています。しかも過分に静態的な分析数値であり、資金の活動状況が今期の利益にどのように関わっているのかについては何も示してくれません。

  損益とは、売上高 − (売上原価 + 経費) = 利益 。 資金とは、売上収入 − (売上原価支出 + 経費支出) = 資金利益です。

  従来の会計理論と日々の経営者の実感との認識のギャップは、貸借対照表の在り高の静態的分析による正味運転資本の捕らえ方の中にその原因を見出すことができます。

  正味運転資本とは営業"赤字資金"資金、あるいは"内部消費資金"に他ならないと前述いたしましたが、この捕らえ方によって財務諸表の数値はより説得力を持つものとなるのではないでしょうか。

  前記の「営業在り高資金」計算表を見ると、

● 今期売上収入は低かったのか?
● 仕入が多かったのか?
● 売買資金として得た資金量は、なぜ粗利益高とイコールしなかったのか?

  という疑問に対して、"在り高増減額"がそれらの答えを示しています。

  利益と資金と在り高増減は一体不可分の相関関係を形成し、経営者が求める利益と資金の情報は、この在り高増減の状況を仲介役として認識されていきます。

 従って在り高増減分析を基本とするトリオバランス経営は、正味運転資本という名の営業"赤字資金"の削減を主な目的としています。粗利益高と同じ売買資金量を確保するためには"在り高増減"のコントロールにこそ戦略の鍵が求められるべきなのではないでしょうか。

  製造業・販売業のいずれも、本業としての事業の中心部分において、利益と資金と在り高増減の相関関係が企業経営の中心的な役割を担っており、このことから

売上対前年比 117%%
債権増加率 5.7% 回転期間 7.05月
商品増加率 1.4% 回転期間 1.25月
債務増加率 2.2% 回転期間 3.0月

  の諸データを前年実績対比(時系列)、目標対比(相対的)、あるいは業界平均値と比較しながら検討していくと、より鮮明に経営の戦略性における問題点が浮かび上がってきます。

★  利益資金管理ゾーン

  利益管理ゾーンは、損益計算書の考え方を前述の営業在高資金の流れに関連させることによって、利益と資金の本質を見極めようとする部分です。損益計算書は収益から費用を算定するものであって、費用は粗利益の範囲内でなくてはならないことは周知の事実ですが、実現主義に基づいて計算された収益と、発生主義に基づいて計算された費用との対応計算でなければならないという原則はつい忘れがちです。

費用の支出は、

① 当期中の支出が費用支出となる場合 … 一般管理費 販売費
② 過去の支出高の期間配分を費用支出とする場合 … 減価償却費 棚卸の売上原価 繰延償却
③ 未来の支出予想額を当期の費用支出とする場合 … 各引当金繰入額

  等があって、損益の計算の流れと、経営資金の計算の流れの間にはズレが存在しますが、殆どの中小企業経営者は、経費は直ちに資金流出に等しいものとして認識する傾向にあります。実現主義原則に基づく収益の数値が直ちに資金収入を意味するものであればそれでも問題はないのですが、貸借対照表の計算原則が両者の間に介在し、このズレを深くしているのが現状でしょう。

期首期中営業活動期末損益活動資金活動在庫増減
粗利益資金756756633
利益管理費営 業 費人件費241241241
正味金利119119119
減価償却666
退職引当繰入777
他の経費183183183
(合計)556556556
営業外収入222
営業外支出555
経常利益資金19719774△123

  トリオバランス経営診断では、上記の3形態の費用支出の解釈を中小企業の経営者がお持ちになる日ごろの感覚に沿うように、費用はすべて当期に支出した資金という形で取り扱います。
損益活動欄の

収益 ― 費用 = 利益 に対して、資金活動欄に
売買収入資金 ― 費用支出資金 = 経常利益資金
として表示します。

★  経常利益資金と同質の利益資金

  ここでの狙いは、利益資金を損益計算書の経常利益と同質の(同じ感覚の)経営資金として捕らえられるようにすることにあります。 利益管理資金ゾーンの計算は通常の損益計算書形式でかまいません。製造業、販売業など、それぞれの業種や経営形態によって本業直接費、間接費に大分類して機能別に費用科目を編成することによって管理効果を向上させることができます。

  予算に対する実績や比率分析は別途管理表を作成して検討します。

  ここでは経営の内面に位置する収益・費用・資金の流れの大筋を把握することが重要です。

モデル企業では単純化した費用構成、即ち
人件費 241(百万)
正味金利 119(百万)
減価償却 6(百万)
退職給与引当金 7(百万)
その他経費 183(百万)
(合計)556(百万)

  を例に取って解説していますが、販売業であることから、全体を固定費的に解釈しています。このうち非現金費用である

減価償却費 6(百万)
退職給与引当金 7(百万)

は前述しましたとおり、資金支出があったことにして計上します。営業外収入、営業外支出は損益計算のとおりですが、モデル表は金融費用も固定費用とみなし、

支払利息割引料 ― 受取利息 = 正味金利
141(百万)   22(百万)  119(百万)

  として、一般管理の数値に合計しています。中小企業の経営者にとって、金融費用も含めた総経費コストという視点がより日常感覚に近いものであると考えるからです。

  従って、営業外収入・支出はその他の収入・支出の数値となります。また、分析比率を利用して売上対比・構成比・付加価値分配率(粗利益対比)を計算し、時系列比較・予算対比・業界平均比較を行うことによって、費用効果を検討します。

項目売上対比構成比付加価値分配率
人件費2419.6%43.3%31.8%
正味金利1194.7%21.4%15.7%
減価償却60.2%1.1%0.8%
退職引当金70.2%1.2%0.9%
その他経費1837.3%3.3%0.4%
合計55622.2%100%73.5%

  業種業態により、製造原価要素・直接費・間接費・管理不可能費。あるいは従業員一人当たりの費用として分析した数値など、色々な側面から計測してみます。

  前述の営業在り高欄で得た粗利益、売買資金、正味在り高に連動させて計算をおろしてくると、期間経営の成果は、まず損益活動欄で把握することができます。この1年間の成果としての経常利益が本物の利益であるのか、計算上の架空の産物であるのかを、資金活動欄の"経営資金"が示してくれます。

粗利益  197(百万) 利益資金  74(百万)

  損益計算の経常利益が経常利益資金と同額であれば、それは本物の利益であるということができます。

  経常利益額より経常利益資金が少ないようであれば、その差額こそ、架空の見せ掛け利益であるということになります。前述の正味在り高増減額がその内訳を雄弁に物語っています。

  経常利益  197(百万) − 経常利益資金 74(百万) = 差引 123(百万)‥正味在り高増減額

  顧客に満足を与えるための本業としての活動部分が、ほぼ、"勘定足りて銭足らず"に近い状態であったことが明らかになりました。 この勘定概念の根本にあるものは、本来、経営の成果として損益計算書の経常利益と同額の経常利益資金が実際に手元に残るべきだという中小企業経営者が抱く本源的理念に他ならないのです。

★  個別在り高資金ゾーン

  個別在り高資金ゾーンでは、流動資産・負債勘定のうち、非営業勘定部分と固定資産・固定負債・資本勘定をひとまとめにし、それらの交換未完了の状態及び、期中の経営資金の動きを把握します。

  個別在り高とは、営業直接科目以外の貸借対照表中の各科目、という意味で、主体となるのは固定資産投資額と自己資本及び固定負債との対応です。この数値を検証しつつ期中の経営資金の動きを把握することができるのです。

  モデル企業を見てみると、十分な検討を踏まえた上で固定資産投資を行ったとはとてもとは言いがたい状態です。  "経営も黒字だし、何とかなるだろう"という安易な姿勢を読み取ることができるでしょう。このあいまいさを払拭して意思決定に論理性を持たせ、戦略的な行動をとるよう強く促す必要があります。

土地建物 増加 130(百万)
増  資     45(百万)

  資金が長期的に固定化する固定資産に短期流動資金を当ててしまうと、安全性が崩壊し、経営資金不足を招いて資金繰りが頓挫しかねない状況を作ってしまいます。

期首期中営業活動期末損益活動資金活動在り高増減
経常利益資金19719774 △123
△V 個別在り高資金資産在り高前払金14041△40△40
未収金
その他流動資産17330△3△3
土地建物426130556△130△130
償却資産 20222△2△2
投資勘定431053△10△10
繰延勘定40400
所要資金511185696△185△185
負債資本在り高前受金
未払金
他の流動負債64△747△7△7
諸引当金90101001010
資本勘定14190231 9090
当期利益金6015751515
調達資金355108463108108

  トリオバランス経営診断表の計算は、期首に対する期末の増減額で資金の動きを捉えようとするものです。資産科目の増減合計を所要資金として、負債・資本科目の増減合計を調達資金として資金活動欄と在り高増減欄へ転記します。

  この場合、資金運用原則である

資産の増加・負債の減少は、資金 マイナス。
資産の減少・負債の増加は、資金 プラス。
を必ず表示しなくてはなりません。

  資金在り高増減の所用資金は、固定資産投下資金を含むところの185(百万)でした。これに対して負債及び資本在り高合計の調達資金は108(百万)でした。

所要資金 185(百万) − 調達資金 108(百万) = 不足資金 77(百万)

  大まかな計算になりますが、資本金増資額 45(百万)、内部留保資金 60(百万)を含みながら、なお調達資金不足額が 77(百万)あることが分かります。モデル企業は、長期借入金の資金調達 113(百万)でこれを賄っています。

  固定資産投資は、投資効果・有効性、運転資金との調和、回収期間、コスト面等資金の運用面以外の効率性を十分に検討しなくてはなりません。

a) 設備投資効率   = 粗利益 756 ÷ 固定資産 635 = 119.0%
b) 固定資産回転率  = 固定資産 735 ÷ 月商 208  = 3.0ヶ月
c) 固定比率     = 固定資産 635 ÷ 自己資本 306= 207.5%
d) 固定長期適合率  = 固定資産 635 ÷ (自己資本 306 + 長期借入金 577)= 71.9%

  自己資本比率は10.4%と低い数値を示しています。借入金への依存度が高い場合は、金融コスト面

正味金利率 = 4.7%
インスタント・ガバレッジ = 6.3倍
の検討と、設備能力と稼動条件の関係・稼動条件と操業度の関係において、常に経営資金効率にその影響があわられてくることを考慮しなければなりません。

★  自己金融と資本勘定

  前述のように、損益活動で計上した非現金費用の減価償却は資本減少であり、退職給与引当金は負債増加であって、ともに資金プラスとなります。すなわちこの表の中では資金が回収されたことになります。

  固定資産は減価償却という費用に転化し、投下された資金も長期にわたって回収されることから、固定資産も交換未完了資金として計上します。

  当期純利益の中には社外流出金(配当金・役員賞与金)が含まれますが、次期の会計処理事項ですのでここでは取り上げません。財務管理の資金運用表に見られるような、面倒な正味計算は必要ないのです。

  資本勘定と当期利益金は、大筋で前期と比較した増加の度合いが重要です。

  以上の計算で得た所要資金と調達資金の額面は、利益管理資金ゾーンの経営資金活動・正味在り高に関連させて計算をおろしてくることによって求められます。

★  資金効果ゾーン

資金効果ゾーンでは、資金成果欄の数値によって、期間に経営努力がなされたがどうかを判定します。資金効果ゾーンは、正味の財務的効果を把握するため、現預金欄と資金成果欄及び外部金融資金襴の3項目から構成されます。

期首期中営業活動期末損益活動資金活動在り高増減
経常利益資金19719774△123
所要資金511185696△185△185
調達資金355108463108108
△ W 資金効果現預金当座性預金1374141差197経常利益△4△4
固定性預金32433357△33△33
(合計)46137498△37△37
資金成果△40△237
金融短期借入1,1351241,259124124
長期借入464113577113113
(合計)1,5992371,836237237
総資本 2,5212,922

  現金預金欄は更に当座性現金預金(現金当座預金・普通預金・振替預金・短期的特定預金)と固定性預金(定期積金・定期預金・一年以上の特定預金)に区分し、期首残高に対する期末残高の増減額を計算して、資金活動欄の在り高増減欄へ記入します。

  資金運用原則に従って、増加した場合は資金マイナス。減少した場合は資金プラスと表示します。

  トリオバランス経営診断における"現金預金"は、会計学や財務官理論における"実態資金"を意味する固定的な概念とは異なり、日々の経営活動の中で最も変わり身の早い交換未完了の流動資産を意味します。すなわち現金預金を、経営資本を構成する全体資金の一部として捉えています。

流動比率も高くなった。
正味資本も増加した。
利益勘定も合致した。

  が、税金を納める、あるいは株主に配当する現金が無い‥。

  なんとも不思議な会計学の世界です。このような会計学の一面が現場の中小企業経営者にとって会計情報を使いづらいものにしているのではないでしょうか。

  経営活動の記録は、損益計算から資金計算へ、さらに貸借対照表へと三段階に連動しています。しかし複式簿記の記録仕訳は常に貸借二組の構成になっています。すなわち損益計算・資金計算・貸借対照表の三機能のうちの一つが仕訳のプロセスの中に埋没していることになるのです。筆者はこのような埋没仕訳が貴重な現金増加額を的確に表現するとは思えません。

  貸借対照表の現金・預金残高は経営活動の結果として存在しているという考え方には疑問が残ります。毎日の経営活動は現金預金の形態変化を伴い、損益活動・資金活動・在り高増減に集約されているため、常に交換未完了の状態にあります。現金預金資金(固定性預金を除く)を支払手段としてみる限り、即時性があり、資金繰り管理上の貴重な資金要素であるわけですが、貸借対照表上の現金預金在り高は、純粋な利益資金であるとは言い切れないのではないでしょうか。

  期末一時在り高の現金預金を、支払の延期による一時的な手許残高か、割引手形、借入金増による在り高か、役員よりの一時仮受け・預かりによるものか、といった変わり身の早い貨幣性資産として狭隘に解釈し、経営資金活動の成果は期末在り高増減と等しくなくてはならないという財務管理の原則が、経営者の実際の経営手法との間に溝を作っています。期末の在り高は交換未完了の経営資金であると考えるべきなのです。

★  経営資金成果欄の求め方

  前述の利益管理資金ゾーンの合計である経常利益資金74(百万)と在り高増減△123(百万)に個別在り高資金ゾーンの所要資金△185(百万)、調達資金108(百万)の合計を連結させ、そのまま現金預金の増減高を追加計算していくと、自動的に資金成果欄の数値を得ることができます。

資金活動へ△40(百万)

在り高増減へ△237(百万)

  最後は外部金融資金の期首対期末の増減高を計算し、増加はプラス、減少はマイナスと表現して右の活動欄の在り高増減欄へ転記します。

  トリオバランス経営診断論の基本はキャッシュフロー概念であるため、借金性悪説の立場を取ります。借入の適否の判断を行うため、これを資金成果欄の最後に置きます。

  経営戦略を誤り、管理機能が十分に働かず、均衡が崩れた結果、借入を行って収支のバランスを取るという、"死に金"を抱えることを避けなければなりません。ただし、戦略的に許容できる範囲で、積極的に先行投資を行う形での借入金増加とは明確に区別されなければなりません。

  以上で動態診断表の作成は終わりです。

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