トリオバランス診断表は一見財務管理を目的に作成される「資金運用表」に似ていますが、本質的には全くその性質が異なります。
まず、"資金"に対する概念を異にします。資金運用表で定義されている資金は、実態資金としての"現金資金"を意味しますが、トリオバランス経営診断表では、前章で見ていただいたとおり、現金資金以外の様々な形態の資金も意味します。
トリオバランス分析に比べると、資金運用表が示す数字は表面的なものに過ぎません。トリオバランスは数字として表面に現れていない"見えざる資金"の動きまで把握することが出来ます。
資金運用表は、トリオバランス経営診断に比べると相対的に"静態分析"であって、トリオバランス経営診断が目指す動学的アプローチには不適であると言わざると得ません。
また、損益計算上の資金の流れを源泉と使途で把握しながら相殺させる仕組みを持っているため、せっかくの資金情報を単に"期末現金預金の増減"に集約してしまうことから、資金経路の交通整理を行うにとどまるのです。 経営者が意思決定情報として欲しいのは、変化しつつ流動する経営資金の態様に他なりません。
資金運用表は年1回ないし2回の決算期しか作成できないのに対し、トリオバランス経営診断は月次決算、月次試算表からも作ることが出来ます。 また資金運用表は、資金繰り管理には活用できないのに対して、トリオバランス経営診断表は月次資金繰り管理の先行資料として有効で、資金繰り管理を拡大した財務管理を日常の管理として使用することも可能です。
この診断表を使って経営資金の流れ方を自在にコントロールすることができ、このことを日常の経営活動に戦略的に応用することができます。
部門別に分割したり、事業所別に分割したりと、形態に応じて細かく組織を再構成して経営分析システムを編成することができるので、管理職や従業員のOJT訓練が可能であるだけでなく、能力開発にも応用することができます。
トリオバランス経営診断は資金運用表に比べて問題訴求力が強く、診断者に素早く問題点を提起します。 損益中心の経営計画立案方式であることから、経営資金見積もりをシュミレーションしつつ、容易に経営計画を組み立てることができます。このことにより期末予想貸借対照表の精度が高くなります。
★ 営業在高資金ゾーン
ここは製造業、建設業、卸売業、小売業、サービス業など、企業が顧客に満足を与えるための事業、つまりその企業の本業の部分です。
水平的機能別会計の原則に基づいて、本業を構成する三機能業務サイクルの勘定科目をB/S、P/Lよりグループ化します。
このモデル企業は卸販売業です。基本的な業務のサイクルは、「仕入」→「在庫」→「販売」→「回収」→「支払」です。
(単位百万円)
| 期首 | 期中営業活動 | 期末 | 損益活動 | 資金活動 | 在り高増減 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| △T営業在り高資金 | 売上債権 | 受取手形 | 975 | 1,073 | △98 | |||
| 売掛金 | 348 | 394 | △46 | |||||
| 売上高 | 2,497 | 2,497 | ||||||
| 売上収入 | 2,353 | 2,353 | ||||||
| 商 品 | 商 品 | 226 | 261 | △35 | ||||
| 仕入高 | 1,776 | |||||||
| 売上原価 | 1,741 | 1,741 | ||||||
| 仕入債務 | 支払手形 | 486 | 531 | 45 | ||||
| 買掛金 | 81 | 92 | 11 | |||||
| 仕入高 | 1,776 | |||||||
| 仕入決済高 | 1,720 | 1,720 | ||||||
| 粗利益資金 | 756 | 756 | 633 | △123 | ||||
勘定科目は、
売掛金、受取手形、純売上高、商品棚卸高(売上原価)、純仕入高、買掛金、支払手形 で構成されています。
このそれぞれの数値をB/S期首残高、P/L期中活動高(純売上高、純仕入高)、B/S期末残高に記入します。トリオバランスの相関性を検証するために、右の損益活動、資金活動、在り高増減の誘導計算がなされます。
それぞれ独立した意味を持ちながらも、これら三者は相互に深い関連性を持っています。
★ 正味在り高(トリオバランスの原則)
| 粗利益 − 売買資金 = 正味在り高 |
| 756(百万) 633(百万) 123(百万) |
実現主義と発生主義会計の隙間に生じた埋没仕訳が原因で表に出てこなかったいわゆる「見えざる経営資金」が、このような簡易な管理手法を実践することによって現れてきます。これこそ真の経営実態なのです。
すなわち、このモデルを
粗利益 756(百万) − 正味在り高 123(百万) = 売買資金 633(百万)
という式に置き換えて考えると、粗利益資金 756(百万)は、正味在り高資金 123(百万)を社内で消費してしまい、実際に経営活動に流用できた売買資金は 633(百万)のみであったということになります。 粗利益資金756(百万)をすべて経営資金に活用できていたとしたら、正味在り高は"ゼロ"でなければなりません。
財務管理では、正味在り高123(百万)を"正味資産"と表現しています。増加すれば支払能力、すなわち安全性が高く、流動比率が好転しているという判断を行います。これは非常に無責任な価値判断であるといわざるを得ません。"流動比率"を"黄金比率"といっていたのは今や遠い過去のことです。
筆者は、正味運転資本を"社内赤字資金"と考えるべきだと思います。中小企業の経営現場で資金繰りに苦しんでおりました頃、試算表の中から、
売上債権 = 支払手形
商品在庫 = 買掛金
の発想の下、それぞれの増減額、回転率変化に着目し、資金繰りの先行指標としてこれを利用することにより、 調達資金(支払手形・買掛金) が 運用資金(売掛金・受取手形・商品) を常に上回るように営業(販売・回収・在庫・仕入・支払)をコントロールしていきました。
仕入先に過度に仕入、支払を厳しく突きつけると、仕入単価、仕入割戻し、その他仕入条件の改悪というマイナス効果を生み、販売価格や販売促進策に悪影響を及ぼします。従って、毎月の試算表によって、売掛金、受取手形商品 = 支払手形、買掛金の在り高の均衡を実現するよう経営のコントロールを行いました。現実的には在り高増減が"ゼロ"になることはありえませんが、仕入先から最大限の譲歩を引き出しつつ、社員一丸となって販売促進にまい進し、これが"ゼロ"になるように努力していきました。
創業およそ2年目以降に金利の圧力から開放され、資金繰りは楽になり、これ以後、増加運転資金という名目の営業資金借り入れの必要は殆ど無くなっていったのです。
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